デザイン・コンペのご案内

COMPETITION

第6回パイロシステム ガラス防火区画デザイン・コンペ2024
〈入賞者発表〉

審査結果

2024年3月11日、厳正な審査の結果、
下記の通り最優秀1作品、優秀賞2作品、準優秀賞14作品、佳作21作品の計38作品が選ばれました。

氏名 会社名(組織名) 作品名
最優秀 宮島 照久
真鍋 展仁
株式会社竹中工務店 WITH HARAJUKU
優秀 町 慎一郎
狩野 輝彦
株式会社久米設計 川口市立高等学校 / アリーナ棟
優秀 海老原 浩雄
塩田 一弥
株式会社大林組 エスコンフィールドHOKKAIDO
準優秀 高橋 章夫
小林 浩
村国 健
濱田 真介
大成建設株式会社 大倉本館
準優秀 鈴木 教久
押田 拓也
千葉 雄介
株式会社梓設計 壬生町庁舎
準優秀 池田 健太郎
永井 仙太郎
株式会社日本設計 中外ライフサイエンスパーク横浜
準優秀 斎藤 裕一
渡邉 光太郎
米澤 星矢
株式会社類設計室 キミカ本館
準優秀 根岸 健一
西野 安香
清水建設株式会社 青山学院大学 新図書館棟 ( 仮称 ) 建築計画
準優秀 宮島 照久
吉村 亮毅
中村 尚弘
株式会社竹中工務店 MGビル 千鳥ヶ淵
準優秀 小川 浩平 清水建設株式会社 NOVARE Lab ノヴァーレラボ
準優秀 戸川 勝之
菊池 浩輔
片岡 政規
株式会社安井建築設計事務所 大阪工業大学大宮キャンパス3号館・4号館新築工事
準優秀 丸目 明寛
井上 雄貴
齊藤 拓臣
株式会社久米設計 小山市庁舎
準優秀 兒玉 謙一郎
秋葉 俊二
平﨑 昂
大窪 研二
西森 史裕
箕浦 浩樹
株式会社久米設計
株式会社大林組
箕面市立文化芸能劇場・箕面市立船場図書館
・箕面市立船場生涯学習センター
準優秀 堀場 弘 シーラカンスK&H 東京都市大学7号館
準優秀 小野島 新 清水建設株式会社 パークコート神宮北参道 ザ タワー
準優秀 海老原 靖子
佐藤 久美子
矢嶋 優太
株式会社久米設計 沖縄科学技術大学院大学 第5研究棟
準優秀 山田 武仁
柏谷 修平
中野 弥
住友不動産株式会社
株式会社日建設計
大成建設株式会社
新宿住友ビル RE-INNOVATION PROJECT
佳作 長瀬 信博
竹本 卓也
長瀬信博建築研究所 本泉寺境内地整備事業 二期工事 ( 本泉寺納骨堂 和音Ⅱ)
佳作 加賀 隆徳 株式会社ほとり建築事務所 ヤマニパッケージ本社社屋 新築工事
佳作 甲田 智之 株式会社熊谷組 ブランズタワー豊洲
佳作 藤江 比呂子 株式会社石本建築事務所 摂南大学寝屋川キャンパス3号館
佳作 清原 健史 株式会社安井建築設計事務所 大阪国際中学校高等学校
佳作 橋村 雄一 Studio Hashimura ゴールドウイン原宿ビル
佳作 興津 俊宏 株式会社竹中工務店 神戸薬科大学A棟
佳作 黒川 智之 株式会社黒川智之建築設計事務所 KEITOKU BLDG.
佳作 小泉 治
山口 泰弘
松岡 且祥
株式会社日本設計 国立国会図書館関西館書庫棟
佳作 橋本 和典
高野 直樹
宮武 慎一
中村 理恵子
三井 貴裕
株式会社安井建築設計事務所 京都競馬場スタンド(ゴールサイド)
佳作 北野 雅士 株式会社内藤建築事務所 にこわ新小岩
佳作 石井 康彦
炭田 晶弘
広瀬 和也
町山 玉魚
株式会社東畑建築事務所 関東学院大学 横浜・関内キャンパス
佳作 今川 与志雄 株式会社綜企画設計 大阪支店 堀江小学校西学舎
佳作 大野 竜也 株式会社佐藤総合計画 呉市消防局・西消防署
佳作 池住 勇治 髙松建設株式会社 マリング心斎橋BLD.
佳作 工藤 和美 シーラカンスK&H 大宮区役所・大宮図書館
佳作 松田 雄三
森下 春香
株式会社東畑建築事務所 武庫川女子大学生活環境2号館
佳作 本田 隆作 株式会社昭和設計 鳥取市民体育館
佳作 五寶 智美 清水建設株式会社 ヤマサ醤油株式会社東京支社建替計画
佳作 黒川亮
森大樹
岩田慎一郎
神津光
藤井俊之介
中村全志
高橋正明
齊藤瑞希
矢内泰成
半沢優太
株式会社リアルゲイト LANTIQUE(旧ワコーレ代官山)リニューアルプロジェクト

最優秀賞:WITH HARAJUKU 作品写真

優秀賞:川口市立高等学校 / アリーナ棟 作品写真

撮影:Blue Hours 沖裕之
撮影:Blue Hours 沖裕之
撮影:Blue Hours 沖裕之

審査総評/萩原 剛(早稲田大学教授)

 1918年から約3年間に渡り世界中を襲ったスペイン風邪のパンデミックは、公衆衛生概念の浸透によってモダニズムの機能主義を加速すると同時に、田園や自然と共生する新たな現代人のライフスタイルを誘導した。パンデミック後の1923年欧州を視察しオランダの田園建築の数々を日本に伝えた若き堀口捨巳は、「田園生活とは都市的なるものの反動のみにでは考えられない人間的な当然の根拠である。(「建築の非都市的なるものについて」より筆者要約)」とし、自然主義的建築の重要性を説く新型コロナの影響により、前回2019年以来5年ぶりの開催となった今回のコンペには、多くの応募があり、建築界の活況ぶりに安堵した。一方で、この4年の間にガラスの役割も透明性による交流の促進といったイメージ論だけでなく、室内環境や空間性といった人間の行為や心理と関わる素材として熟慮され、自然との関係性のなかで新たな役割を担い始めたように思う。
 前回は、「イートピアみやこ」や「日本女子大図書館」のような中央のパブリックスペースやコモンスペースとのコミュニケーションを目的とした視線の応答がテーマの主題だった。今回はこの視線の応答の連続線上にありつつ、より熟慮された作品が上位を占めたものの、新しい傾向も見られた。
 連続線上に作品としては、前回も入賞した「川口市立高等学校」がある。前回の校舎棟同様に、2つのアリーナ棟を貫通するフィジカルロードとの一体化を耐火ガラスで行いつつ、大胆な架構システムの採用することで、大面積のガラス開口では、陥りがちなモデュールの繰り返しによる単調さを回避している。連続線上にありつつもより熟慮の方向に向かった作品に「箕面市立文化芸能劇場・箕面市立船場図書館・船場生涯学習センター」がある。中央部の吹抜空間に面して、耐火ガラス壁を使い書庫を配置し中を見せるとともに、スパンドレルのグラフィックや読みぬかれたところに配置された耐火ガラスの小窓によって切り取られた風景によって、人間と知の交感が象徴化されていた。また、東京都市大学7号館は、ローコストながら目の行き届いた設計が清々しく、大階段をガラスで浮遊させるなど、熟慮された耐火ガラスの納まりが目を引いた。
 一方、非連続線上の傾向として耐火ガラスの「装飾化」が上げられる。代表的な作品に「大蔵本館」があった。中心の階段室に耐火ガラス壁の両側にエッチングガラスを配置しオニックスのような半透明な装飾性を生み出した。いずれシステムのなかに取り込めるかもしれないアイデアの可能性を秘めている。最優秀案となった「WITH HARAJYUKU」は、耐火ガラスの公共性から親密性への移行を暗示する作品である。触ることもできるという親しみやすさを感じさせる。
 SNSやAIの急速な進化のなかで、自己の不在が叫ばれる中、“装飾性„と”親密性„は次世代の耐火ガラスの主要なテーマとなり、人間と自然との関わりをテーマとする技術開発やデザイン表現が模索される予感がした一日であった。

審査評/中谷正人(建築ジャーナリスト)

 コロナの影響でしばらく中断されていたためか、今回の応募作品はいずれも機能・性能だけではなく、デザイン的にもこれまでのコンペと比べて優秀な作品が集まったように思え、手応えを強く感じられるデザインコンペの審査でした。
 公共建築、教育施設、文化施設など大規模なものから小規模な商業施設まで、パイロシステムが多様な建築で使われていることを目の当たりにして、あらゆる方面から期待されていた製品だということを改めて感じた次第です。

 最優秀に選ばれた「WITH HARAJUKU」はファッショナブルな街にあって、建築自体のデザイン的な魅力とともに、豊かな都市環境を産み出す起爆剤となることを期待したいと思います。これまでのさばっていたティーンエージャーを駆逐しよう、というのは過激な言い方ですが、新しい原宿の姿に期待を抱かせる案だと感じました。
 この作品に限らず、すべての応募作品に共通して言えることは、建物の使用者に対する配慮とともに、建物が立地条件する場の自然環境や、建物を利用する人々に対する積極的な働きかけを感じることができたことです。審査員としては何だか嬉しいことであり、これからの都市環境が豊かになることを期待できるように思われました。
 そんな中で、異色とも思われるのが「大倉本館」の防火区画でした。壁で仕切られて当然の防火区画に透明なガラスを使うことができる。これがパイロシステムの大きなメリットです。ところが、「大倉本館」ではガラスに装飾がプリントされていました。
 機能主義と合理主義で突き進んできた現代の建築が、今後の姿として豊かさを取り戻す必要があると、私は個人的に考えています。豊かさを獲得する可能性のひとつとして、装飾性を無視することはできないと思います。このような視点から、大倉本館における設計者の挑戦を評価したいと思いました。もちろん、その背後には大倉本館全体との連続性があると思われます。防火区画という安全を確保を最重要視するべき場所においても、連続性が途切れることを避けた決断だと受け取りました。
 以上は、応募図書から読み取ったことで、ここで取り上げられなかった応募作品からも、様々なメッセージを受け取ることができました。私が記したことは、設計者の本意とは違っているかもしれません。しかし、設計者以上に建築は長生きします。設計者が発する言葉が届かなくとも、建築自体が語り続けてくれることは、歴史的建築物が証明しています。そして、建築が読まれる時代に即して、建築はその時代に相応しい言葉で語り掛けてくれる。  改めてこのことを思い出させていただいた審査でした。
 応募していただいた皆さんに、厚くお礼を申し上げます。

副賞「現代建築ツアー」の紹介

オーストラリア現代建築ツアー/期間:2024年6月1日(土)~8日(土)6泊8日

主な訪問先と建築物
<シドニー>
オペラハウス: 日本人ガイドによる内部見学ツアー(写真1,2)
Koichi Takada Architects: 自社設計『インフィニティ』『Arc by Crown』の現地見学(写真3,4)
              事務所訪問、プレゼンテーションによる交流会(写真5,6)
市内建築見学ツアー: 建築家Matthew Fungの案内による建築ツアー(写真7)
GHD Group Pty Ltd: 事務所訪問、プレゼンテーションによる交流会(写真8)
            セントラル駅現地見学会(写真9)
UTS(シドニー工科大学): 施設見学ツアー(写真10)
Smart Design Studio: 事務所訪問、ランチミーティング交流会(写真11,12)

<ブリスベン>
市内建築見学ツアー: 『ブリスベン・スカイタワー』『オーロラタワー』他

<ゴールドコースト>
HOTA(HOME OF THE ARTS):見学(写真-13,14)
Bond University: キャンパス見学、大学スタッフとランチミーティング交流会(写真15,16)
          建築校舎見学ツアー(写真17,18)

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18

参加者から寄せられたツアーの感想(一部抜粋して掲載)

・訪問先の選定に間違いなど1つもなく、かつ綿密に練られたスケジュールだった。 ひとえに下準備の賜物であったと、パイロシステム様に敬意を表したい。
・高田浩一事務所、GHD社、Smart Design社、UTS、ボンド大学をツアー行程に入れていただき、単なる「外観、インテリア見学」にとどまらない「人の向こう側にある建築(思想、着想など)」を感じられ、刺激を受けたことがとても素晴らしい企画であった。
・受賞に値する建築に対する情熱と向上心を持った同じ世界にいる「建築人」と知りあえ、互いに刺激を受けたと思う。

 全体を通じて想像を遥かに超える満足度のツアーでした。「交流」がコンセプトという話が主催者からありましたが、それが何より良かったです。やはり皆さん専門家なので、単なる見学だけでは満足出来ないと思うので、行程を組むのは大変かと思いますが、設計者の方による案内や通常では見られない専有部やバックヤードに入れること、関係者とのディスカッション等があることがとても大事かと思います。そういった意味でも今回は大手設計事務所、アトリエ系設計事務所、都心の大学、郊外の大学と非常に振れ幅広く訪問出来たことが非常に良かったです。参加メンバーの方々は普段は競合することも多い会社ばかりですが、濃密な交流はとても楽しく、通常では難しい他社さんとの情報交換の機会は非常に貴重な時間だったと思います。
 ツアーをきっかけに各社で活躍されている参加メンバーの方々が受けた刺激によって、業界全体として国際的な力が高まっていくと良いと感じました。今回の縁をきっかけに、今後も皆さんとの交流を続けていければと思います。

 私としては、一番感動したのは、訪問先とツアー参加者との様々なコネクションができたことです。
 これは私一人ではできなかったことなので、本当に素晴らしいと思ったし、参加してよかったと思いました。
 建物見学ツアーについても、普段の日本国内の設計とは異なる環境下で生み出される建物達を見るたびに、非常に刺激を受けました。今後の設計業務に活かせたらと思います。
 今回のツアーで思ったのは、やはり日本全体の建築業界の一員として、国レベルで(時に地球に住む一員として)考えないといけないな、と感じました。

 全日程を通して非常に満足のいくものでした。何よりも建築だけでなく、街歩きや教育機関、事務所訪問といった、実際のオーストラリアの「今」を感じることができたことがとてもよかったと思います。それが今回の狙いだとすれば、大当たりだったのではないでしょうか。建築のありかたの前に、地域や社会のありかた、文化の成り立ちなどを肌で感じ、その上に建築が成り立っているんだという、当たり前ですがなかなか感じる事のできない経験をさせていただきました。これは、私が参加した前回のツアーとはかなり趣が異なり、新鮮でした。ガイドのお二方、事前調査やバックアップをしていただいた主催者の方々には大変お世話になりました。改めて御礼申し上げます。これからも、この経験と繋がりを大切に、オーストラリアに移住することを夢見つつ、社会に還元する仕事ができれば、と思います。